2016年のリオデジャネイロオリンピックで、高橋礼華選手との「タカマツペア」として、日本バドミントン界史上初となる金メダルを獲得した松友美佐紀選手。 髙橋選手の引退後も混合ダブルスで活躍を続けてきた彼女が、2025年3月末で長年所属したBIPROGYを退社し、新たなステージへ進むことを発表しました。
これは引退ではなく、フリーランスとして現役を続行するという新しい挑戦です。 そんな彼女のプレーからは、バドミントン上達を目指すすべてのプレーヤーにとって、数多くのヒントが隠されています。この記事では、松友選手の代名詞である前衛でのテクニックや、トップ選手であり続けるための思考法を、初心者にも分かりやすく解説していきます。彼女の新たな挑戦を応援するとともに、その素晴らしいプレーを振り返り、あなた自身のレベルアップに繋げていきましょう。
松友美佐紀の新たな挑戦と、これまでの偉大な足跡

日本バドミントン界の歴史を塗り替えてきた松友美佐紀選手。彼女の挑戦は、まだ終わりません。ここでは、彼女の輝かしい功績を振り返るとともに、所属先を離れてフリーランスとして歩み始めた彼女の新たな挑戦について見ていきましょう。
「タカマツペア」としての黄金時代
松友美佐紀選手と髙橋礼華選手がペアを結成したのは、聖ウルスラ学院英智高校時代でした。1学年先輩の髙橋選手とペアを組み、高校時代にはインターハイで優勝を果たします。
社会人になってからはダブルスに専念し、その才能は世界レベルで開花します。2014年には、女子ダブルスで日本人初となる世界ランキング1位に輝き、BWFスーパーシリーズファイナルズでも初優勝を飾るなど、世界のトップペアとしてその名を轟かせました。 「タカマツペア」の強さは、前衛の松友選手が巧みなゲームメイクでチャンスを作り出し、後衛の髙橋選手がパワフルなショットで決めるという黄金の勝ちパターンにありました。
日本バドミントン史上初の金メダル獲得
「タカマツペア」の功績の中でも、最大のハイライトは2016年のリオデジャネイロオリンピックです。決勝戦は、最終ゲームまでもつれる大接戦となりました。第3ゲーム、16-19と絶体絶命のピンチから、驚異の5連続ポイントで大逆転勝利を収め、日本バドミントン界に史上初の金メダルをもたらしました。
この歴史的快挙は、日本中に大きな感動を呼び、バドミントンの人気を飛躍的に高めるきっかけとなりました。当時、松友選手は「正直、もう負けたかなと思ったけど、1球でも多く相手に『おおっ』と思わせてやろうと思ってやっていた」と語っており、その不屈の精神力が土壇場での逆転劇を生んだのです。
混合ダブルスへの転向と新たなステージ
相棒である髙橋礼華選手が2020年に引退した後も、松友選手は現役を続行することを選択しました。 混合ダブルスに転向し、金子祐樹選手とペアを組んでパリ五輪出場を目指すなど、新たな挑戦を続けました。
そして2025年3月末、長年所属したBIPROGYを退社。 これは引退ではなく、同社のアドバイザーに就任する傍ら、自身は所属フリーの選手として競技を続けるという新しい形での挑戦です。 松友選手は「全て自分の責任でいろいろなことに挑戦したかった。とても新鮮。もっと進化して成長したい」と語っています。 最近では、五輪2大会連続銅メダルの渡辺勇大選手と期間限定で混合ダブルスのペアを組み大会に出場するなど、その挑戦は止まりません。
松友美佐紀の代名詞!世界を制した”前衛の魔術師”のテクニック

松友美佐紀選手といえば、その小柄な体格からは想像もつかないほど、ネット前で絶大な存在感を放つプレーヤーです。彼女は「前衛のスペシャリスト」とも称され、その鋭い読みと多彩なテクニックで、数々の強敵を翻弄してきました。 バドミントンのダブルスでは、前衛の役割が勝敗を大きく左右します。ここでは、松友選手の代名詞ともいえる前衛でのテクニックを具体的に解説していきます。
相手の意表を突くヘアピン
ヘアピンは、ネット際に来たシャトルを、相手コートのネット際にギリギリに落とす繊細なショットです。松友選手のヘアピンは、ただ落とすだけでなく、相手の体勢や心理を読んだ上で、最も効果的な場所にコントロールされるのが特徴です。
ラケット面と打点: シャトルを捉える瞬間、ラケット面を少し上に向けることで、シャトルがネットを越えやすくなります。また、できるだけ高い打点で触ることが、より厳しいコースを狙う上で重要です。
力加減: 指先の感覚を研ぎ澄まし、シャトルを「運ぶ」ような優しいタッチで打ちます。強く打ちすぎるとシャトルが浮いてしまい、相手に攻撃のチャンスを与えてしまいます。
*フットワーク: 正確なヘアピンを打つためには、落下点に素早く入り、安定した体勢を作ることが不可欠です。無理な体勢から手だけで打ちに行くと、ミスにつながりやすくなります。
松友選手は、相手が前に詰めてきたときにはクロスネットに、少しでも足が止まったと見ればストレートに、と瞬時に判断して打ち分けます。この絶妙なコントロールが、相手のリズムを崩し、次の攻撃へとつなげる起点となっていました。
ゲームを支配するネット前の駆け引き
松友選手の真骨頂は、ネット前での巧みな駆け引きにあります。彼女は常にラケットを立てた状態で構えることで、相手に「プッシュを打たれるかもしれない」「前に落としてくるかもしれない」と迷わせ、一瞬の判断を遅らせます。
バドミントンでは、シャトルがラケットに当たった瞬間に動き出すのがセオリーですが、松友選手は相手の癖やパターンを読むことで、そのセオリーよりもワンテンポ速く動き出すことができます。この鋭い読みと判断力こそが、彼女が「前衛の魔術師」と呼ばれる所以です。
例えば、相手がバックハンドでシャトルを捉えようとした瞬間に、「前に来る」と読んでステップを開始し、相手が返球する前にはすでに最適なポジションに移動しています。この予測能力の高さが、相手にプレッシャーを与え続け、ゲームの主導権を握ることを可能にしていました。
パートナーを活かす絶妙な配球術
ダブルスにおける前衛の重要な役割の一つに、後衛のパートナーが攻撃しやすい状況を作り出すことがあります。松友選手はこの点が非常に優れており、彼女の配球一つで、パートナーである髙橋選手の強打が最大限に活かされていました。
| 配球の目的 | 具体的なショットの例 |
|---|---|
| 相手を崩し、甘い返球を誘う | ・ネット際に沈めるヘアピン ・相手のいないサイドに振るプッシュ |
| 相手の体勢を詰まらせる | ・相手のボディ周りを狙ったショートドライブ |
| 相手に上げさせて、後衛のスマッシュにつなげる | ・ネットすれすれで押し込むようなプッシュ |
このように、松友選手はただ単に返球するのではなく、常に「次の攻撃」を意識した配球を行っています。前に落として相手を前に誘い出し、上がってきた球を後衛が叩く。あるいは、速いタッチで相手を詰まらせ、甘くなったレシーブを自らプッシュで決める。こうした多彩な攻撃パターンは、彼女の卓越した配球センスから生まれていたのです。
なぜ松友美佐紀は勝ち続けられたのか?強さの秘密に迫る

松友美佐紀選手の強さは、卓越した技術力だけではありません。世界のトップで長年戦い続けることができた背景には、彼女ならではの思考法や精神的な強さが存在します。ここでは、バドミントン上達を目指す人が学ぶべき、松友選手の強さの秘密に迫ります。
徹底した自己分析と課題克服能力
松友選手は、常に自分自身のプレーを客観的に見つめ、課題を克服するために努力を惜しまない選手です。彼女はインタビューで「できない理由を探さないこと」を大切にしてきたと語っています。 この言葉からは、現状に満足することなく、常に高みを目指すストイックな姿勢がうかがえます。
・得意なショットは何か、苦手なショットは何か。
・試合でミスが多いのはどんな場面か。
・体力面、技術面、精神面で足りないものは何か。
課題を明確にすることで、日々の練習がより効果的なものになります。
また、松友選手は試合に臨むにあたり、「試合は練習でやってきたこと以外できない。何かできたかも、と思う後悔はもったいない」と語っています。 試合本番で力を発揮するためには、練習段階での徹底した準備がいかに重要であるかを教えてくれます。
パートナーとの強固な信頼関係
「タカマツペア」の強さを語る上で欠かせないのが、髙橋礼華選手との揺るぎない信頼関係です。松友選手は「私は本当に先輩(高橋)のことを尊敬しているし、信用しています」と公言しています。この強い信頼関係が、コート上での抜群のコンビネーションを生み出していました。
髙橋選手もまた、「コンビネーションは世界一だと思っている。それだけは負けたくない」と語っており、お互いを深く信頼し合っていたことが分かります。ダブルスは、二人の息が合わなければ成り立ちません。技術的な連携はもちろんのこと、精神的なつながりが、苦しい場面でのプレーを支えるのです。
例えば、松友選手が大胆に前に詰めることができるのも、「もし抜かれても、後ろには髙橋選手がいる」という絶対的な信頼感があるからです。普段からパートナーと積極的にコミュニケーションを取り、お互いの考えやプレースタイルを深く理解することが、勝利への近道と言えるでしょう。
プレッシャーを力に変えるメンタルコントロール
オリンピックの決勝戦という極度のプレッシャーがかかる場面でも、冷静さを失わずに逆転勝利を収めた「タカマツペア」。その背景には、プレッシャーを力に変える強靭なメンタルがありました。
松友選手は、金メダル獲得後も燃え尽きることなく、新たな挑戦を続けています。その原動力について「もっと強く、うまくなりたい。今も新しい感覚を追い求めている」と語っており、バドミントンへの純粋な探求心が彼女を支えています。
また、勝てなかった苦しい時期を経験していることも、彼女たちの精神的な支柱となっています。「勝てなかった時期があって、それでも上を見続けて進んできたから今があるので、本当に頑張ってきて良かったなと思います」という言葉は、逆境を乗り越えた経験が、大きな自信につながっていることを示しています。試合で緊張してしまう人は、結果ばかりを気にするのではなく、「自分たちがやってきた練習は裏切らない」と信じること、そして一球一球に集中することが大切です。
明日からできる!松友美佐紀のプレーから学ぶ練習法

松友美佐紀選手のような卓越した前衛プレーヤーになるためには、日々の地道な練習が欠かせません。ここでは、彼女のプレーを参考に、バドミントンのレベルアップに直結する具体的な練習法を3つご紹介します。明日からの練習にぜひ取り入れてみてください。
ネット前を制するためのフットワーク練習
松友選手の素早い動きを支えているのは、無駄のないフットワークです。ネット前では、シャトルの落下点にいかに速く、そして正確に入れるかが勝負を分けます。手だけでシャトルを追いかけるのではなく、しっかりと足を動かして体全体で入ることを意識しましょう。
【練習方法:半面での前後フットワーク】
- サービスのショートサービスラインあたりに立ち、構えます。
- ネット前に一歩、大きく踏み込んで素振りをします。この時、ラケットを立てて入ることを意識します。
- 素早く元の位置に戻ります。
- これを左右、交互に繰り返します。
ポイントは、常に低い姿勢を保ち、つま先で軽くステップを踏むことです。 慣れてきたら、パートナーにシャトルを軽く投げてもらい、実際に打ち返す練習に発展させましょう。この練習を繰り返すことで、ネット前の動き出しが格段にスムーズになります。
配球センスを磨くパターン練習
松友選手のような多彩な配球を身につけるためには、様々な状況を想定したパターン練習が効果的です。特にダブルスでは、「自分が打った球に対して、相手がどう返してくるか」を予測し、次の準備をすることが重要です。
【練習方法:3人でのパターン練習(前衛)】
- コートの片側に2人(前衛・後衛)、反対側に1人(ノッカー)が入ります。
- ノッカーは、前衛に対して様々な球出しをします。(ネット前に落とす、ドライブで沈めるなど)
- 前衛は、球種に応じて最適なショットを選択して返球します。
- 浮いた球 → プッシュで決める
- ネットすれすれの球 → ヘアピンで落とす、またはクロスに流す
- 沈んできた球 → ロブで上げて、後衛の攻撃につなげる
この練習では、ただ返すだけでなく、「なぜこのショットを選択したのか」を常に考えながらプレーすることが大切です。後衛のパートナーとも声を掛け合い、コンビネーションを確認しながら行いましょう。
ダブルスで勝つためのコミュニケーション術
「タカマツペア」の強さの源泉は、技術だけでなく、強固な信頼関係とコミュニケーションにありました。練習中からパートナーと積極的に対話し、お互いの意思疎通を図る習慣をつけましょう。
声出し: 自分が打つときには「はい!」、パートナーに任せるときには「お願い!」など、簡単な声出しでも連携ミスを防ぐことができます。
プレーの意図の確認: 「今のは、あそこに打って相手を崩したかった」「次はこう動いてほしい」など、プレーの合間に具体的な意図を確認し合うことで、コンビネーションの精度が高まります。
*励まし合い: ミスをしたときに責めるのではなく、「ドンマイ!」「次、集中!」といったポジティブな声かけが、ペアの雰囲気を良くし、プレーの質を高めます。
ダブルスは一人で戦う競技ではありません。技術練習と並行して、パートナーとのコミュニケーションを深めることが、勝利への重要な要素となるのです。
松友美佐紀の挑戦から学ぶ、次世代へのメッセージ

松友美佐紀選手が日本バドミントン界に残した功績は、オリンピックの金メダルという輝かしい結果だけではありません。彼女のひたむきな探求心と、現状に満足せず新たな挑戦を続ける姿勢は、バドミントンをプレーするすべての人々にとって、大きな道しるべとなります。
この記事では、松友選手の代名詞である「前衛のテクニック」や「勝利への思考法」、そして「具体的な練習法」について解説してきました。彼女が見せてくれた世界レベルのプレーは、決して特別な才能だけで成り立っているわけではありません。
「できない理由を探さないこと」
「もっと進化して成長したい」
こうした彼女の言葉にこそ、強さの本質が隠されています。自分の課題と向き合い、パートナーを信頼し、そして何よりもバドミントンを楽しむ心。所属先を離れ、フリーランスとして新たな一歩を踏み出した松友選手の挑戦は、私たちに「自分の可能性を信じ、型にはまらずに進むこと」の大切さを教えてくれているのかもしれません。 彼女から学んだヒントを胸に、明日からの練習に励んでいきましょう。

