バドミントンのパフォーマンスを向上させたいと考えたとき、多くの人がラケットやシューズに注目します。しかし、シャトルに唯一触れる「ガット」のセッティング、特に縦と横のガット(ストリング)の違いを意識したことはありますか?
実は、この縦横のガットの役割を理解し、自分に合った調整をすることが、ショットの質を劇的に変え、上達への大きな一歩となるのです。 「縦と横でテンション(張りの強さ)を変える」「縦と横で違う種類のガットを張る」といった少し専門的な話も、上達を目指すあなたにとっては非常に価値のある情報です。
この記事では、バドミントンガットの縦と横に焦点を当て、それぞれの役割、テンション設定の影響、そして応用編であるハイブリッド張りまで、初心者の方にも分かりやすく、そして上達を目指すあなたに役立つ情報をお届けします。
バドミントンガットの縦と横:それぞれの役割と重要性

ラケットに張られているガットは、単純に網目状になっているわけではありません。最初に張る「縦糸(メイン)」と、次に編み込むように張る「横糸(クロス)」で構成されています。 これら縦と横のガットは、それぞれ異なる役割を担っており、そのバランスが打球感やコントロール性、反発力を決定づけています。
縦ガット(メイン)の役割:打球感とスピンの要
縦ガット(メイン)は、シャトルが当たった際の打球感や飛びの性能の大部分を決定づける非常に重要な部分です。 シャトルと最初に接触し、その衝撃を最も大きく受け止めるのが縦ガットです。そのため、縦ガットの素材やテンションが、ショットのフィーリングに直結します。
例えば、柔らかい素材のガットを縦に張れば、シャトルとの接触時間が長くなる「球持ち」の良い打球感になり、コントロールがしやすくなります。逆に硬い素材であれば、シャトルを素早く弾き出す「球離れ」の良いフィーリングになります。
また、ガットが切れる時は、ほとんどの場合、この縦ガットが切れます。 シャトルとの摩擦や、横ガットとの摩擦によって消耗が進みやすいためです。このことからも、いかに縦ガットがショットにおいて中心的な役割を担っているかが分かります。
横ガット(クロス)の役割:反発力とコントロールの調整役
横ガット(クロス)は、縦ガットを支え、ガット面全体の剛性(硬さ)と反発力を調整する役割を持っています。 縦ガットがシャトルの飛びの「主役」だとすれば、横ガットはそれを支え、性能を最大限に引き出す「名脇役」と言えるでしょう。
横ガットのテンションを高くすると、ガット面が硬くなり、シャトルの弾きが良くなります。 これにより、スマッシュのようなスピードのあるショットが打ちやすくなります。一方で、テンションを少し緩めると、ガットのたわみが大きくなり、コントロール性を高めることができます。
さらに、横ガットは縦ガットの動きを制御する役割も担っています。ショットの瞬間、縦ガットは大きく動きますが、横ガットがその動きを適切にサポートし、素早く元の位置に戻そうとします。この復元力が、スピンやカットといった繊細なショットの質にも影響を与えているのです。
なぜ縦と横で役割が違うのか?構造的な理由
縦ガットと横ガットの役割が異なるのは、ラケットに張られる際の構造的な理由に基づいています。ガットを張る工程では、まず縦糸を先に張り上げます。 この段階で、ラケットのフレームは縦方向の強い張力によって、わずかに縦長の楕円形に変形しようとします。
次に、その縦糸に交差させるように横糸を張っていきます。この横糸を張ることで、縦長になろうとしていたフレームを元の形(円形)に引き戻し、フレーム全体の剛性を保ちます。 このように、横ガットにはフレームの変形を防ぐという重要な役割があるのです。
この「縦に張り、次に横を張る」というプロセスにより、シャトルを打つ際には主に縦ガットがたわんで反発力を生み出し、横ガットがその動きと面全体の安定性を支えるという、役割分担が生まれるのです。
縦と横のテンション(張りの強さ)設定がプレーに与える影響

ガットのテンション、つまり張りの強さは、バドミントンのプレーに直接的な影響を与える非常に重要な要素です。 テンションは「ポンド(lbs)」という単位で表され、数値が高いほど硬く、低いほど柔らかくなります。 そして、このテンションを縦と横で意図的に変えることで、打球感を細かくカスタマイズすることが可能です。
縦横同じテンション(イーブンセッティング)の特徴
まず基本となるのが、縦ガットと横ガットを同じ強さで張る「イーブンセッティング」です。この張り方の最大の特徴は、打球感にクセがなく、バランスが取れている点です。ガット面全体の硬さが均一に近くなるため、シャトルを面で捉える感覚、いわゆる「ホールド感」が強くなります。
クリアーやロブなど、シャトルをしっかり乗せて運びたいプレーヤーや、まだ自分の好みが定まっていない初心者の方には、まずこのセッティングから試してみることをお勧めします。
ただし、厳密に言うと、横糸を張る過程で縦糸と摩擦が生じるため、同じテンションで張っても結果的に横糸のほうが若干緩くなる傾向があります。また、このセッティングはフレームが縦長に変形しやすいという側面も持っています。
横を硬く、縦を少し緩くする「横硬め」セッティング
現在、多くのプレーヤーや専門店で推奨されているのが、縦ガットよりも横ガットのテンションを1〜2ポンド高く設定する「横硬め」のセッティングです。 例えば、縦を22ポンド、横を24ポンドといった具合です。
このセッティングには、科学的な根拠に基づいた複数のメリットがあります。第一に、前述したフレームの変形を防ぐ効果です。 縦を張った段階で縦長になろうとするフレームを、より強い力で横から引っ張ることで、ラケット本来の形状を保ちやすくなります。これにより、ラケットの性能を最大限に引き出すことにつながります。
第二に、打球感の向上です。横を硬めにすることでガット面の剛性が増し、シャトルの弾きが良くなる「球離れの速さ」が生まれます。 これにより、速いラリーへの対応力が高まったり、スマッシュのスピードが上がったりといった効果が期待できます。メーカーによっては、横のテンションを縦の10%増しで張ることを推奨している場合もあります。
テンション差をつけることのメリット・デメリット
縦横でテンションに差をつけることは、多くのメリットをもたらしますが、デメリットや注意点も理解しておくことが大切です。
| メリット | デメリット | |
|---|---|---|
| 横を硬めに | ・ラケットのフレーム変形を防ぐ ・弾きが良くなり、球速が上がる ・ガットの耐久性が向上する場合がある ・打球感がクリアになる |
・ホールド感が減少し、球持ちが悪く感じることがある ・スイートスポットが狭く感じられることがある ・パワーのないプレーヤーには硬すぎると感じられる場合がある |
| 縦を硬めに | ・ホールド感が強まり、コントロールしやすくなる ・スピンやカットがかけやすくなる |
・フレームへの負担が大きくなる可能性がある ・弾きが悪くなり、球速が出にくい ・ガットが切れやすくなる傾向がある |
自分に合ったテンションの見つけ方
最適なテンションは、プレーヤーのレベル、筋力、スイングスピード、プレースタイルによって大きく異なります。
まずは、ラケットメーカーが推奨する「適正テンション」の範囲内で、縦横同じテンションから始めてみましょう。そこから、もう少し弾きが欲しいなら横を1ポンド上げてみる、もう少し球持ちが欲しいなら全体を1ポンド下げてみる、といったように微調整を繰り返していくのがおすすめです。
また、季節によってもガットの状態は変化します。一般的に、気温が低い冬はガットが硬くなるため、夏場よりも1〜2ポンドテンションを下げると良いとされています。 色々なセッティングを試しながら、自分にとって最も心地よい打球感を見つけるプロセスも、バドミントンの楽しみの一つと言えるでしょう。
縦と横で異なるガットを張る「ハイブリッド張り」とは?

テンション設定の次なるステップとして、縦と横で異なる種類や太さのガットを組み合わせる「ハイブリッド張り」という方法があります。 テニスの世界では一般的ですが、近年バドミントンでもトップ選手が採用するなど注目度が高まっています。 これにより、単一のガットでは実現できない、より高度な性能のカスタマイズが可能になります。
ハイブリッド張りの基本的な考え方
ハイブリッド張りの基本は、それぞれのガットの長所を活かすことです。前述の通り、打球感やスピン性能は主に縦ガットが、反発力や耐久性は横ガットが影響を与えます。この役割分担を理解した上で、ガットを組み合わせることが重要です。
例えば、「打球感は柔らかい方が好きだけど、もう少し反発力も欲しい」という場合、縦には打球感の柔らかいガットを張り、横には反発性の高いガットを張る、といった組み合わせが考えられます。
また、「耐久性は欲しいけど、細いガットの弾きの良さも捨てがたい」という場合には、切れやすい縦ガットに耐久性の高い太めのガットを、横ガットには反発性の高い細めのガットを選ぶ、といった選択も可能です。
ハイブリッド張りのメリット:性能を自分好みにカスタマイズ
ハイブリッド張りの最大のメリットは、既製品のガットだけでは得られない、自分だけのオリジナルの打球感や性能を追求できる点です。
例えば、以下のような組み合わせが考えられます。
- コントロール性 + 反発性: 縦にコントロール系のガット、横に反発系のガットを張ることで、球持ちの良さを保ちつつ、弾きも向上させることができます。
- 耐久性 + 高打球音: 縦に耐久性の高い太めのガット、横に打球音の良い細めのガットを張ることで、ガットを切れにくくしつつ、爽快な打球音を得ることも可能です。
- スピン性 + パワー: 縦に表面がザラザラしたスピン系のガット、横にパワー系の硬いガットを組み合わせることで、カットやヘアピンのキレとスマッシュの威力を両立させることを目指せます。
このように、自分のプレースタイルに合わせて弱点を補ったり、長所をさらに伸ばしたりと、無限の組み合わせを試せるのがハイブリッド張りの魅力です。
ハイブリッド張りのデメリット:相性やコスト面での注意点
魅力的なハイブリッド張りですが、デメリットも存在します。まず、ガット同士の相性です。特性が大きく異なるガットを組み合わせると、性能が打ち消し合ってしまったり、打球感に違和感が生まれたりすることがあります。
また、コスト面も考慮が必要です。ハイブリッド張りをするには、基本的に2種類のガットを購入する必要があります。 そのため、1種類のガットで張るよりも費用が高くなる傾向があります。残った半分のガットを次回に使うことも可能ですが、管理の手間がかかります。
さらに、どの組み合わせが自分に合うかを見つけるまでには、何度か試行錯誤が必要です。そのため、時間とコストがかかる可能性も念頭に置いておきましょう。まずは、ヨネックスの「エアロバイト」シリーズのように、メーカーからハイブリッド用としてセットで販売されている商品から試してみるのが良いでしょう。
代表的なハイブリッドの組み合わせ例
実際にどのような組み合わせがあるのか、いくつか代表的な例を紹介します。これらを参考に、自分なりの組み合わせを考えてみるのも面白いでしょう。
| 目的 | 縦ガット(メイン)の特徴 | 横ガット(クロス)の特徴 | 期待される効果 |
|---|---|---|---|
| ヘアピンとカットのキレを重視 | 表面がコーティングされ摩擦力が高い | 細ゲージで反発性が高い | 縦糸が大きく動き、シャトルに強烈な回転をかける |
| ハードヒッター向けパワー重視 | 太ゲージで耐久性とパワー伝達に優れる | 細ゲージで弾きが良い | スマッシュの威力を最大限に高めつつ、鋭い打球感を実現 |
| バランスとコントロールを追求 | 標準的な太さでコントロール性が高い | 少し細めで反発性をプラス | 安定したコントロールをベースに、ショットの伸びを加える |
ガット選びで知っておきたい!縦横と関係する基本知識

縦と横のガット設定を考える上で、ガットそのものの基本的な特性を知っておくことは非常に重要です。ガットの「太さ(ゲージ)」「素材」「表面加工」などが、縦横の組み合わせによってどのようにプレーに影響するのかを理解しましょう。
ガットの太さ(ゲージ)がショットに与える影響
ガットの太さは「ゲージ」と呼ばれ、mm単位で表記されます。一般的に0.6mm台のものが多く、数値が小さいほど細く、大きいほど太くなります。
- 細いガット(例:0.61mm〜0.66mm)
- メリット: 反発力が高く、シャトルを楽に飛ばしやすい。 打球音が甲高く、爽快なフィーリングが得られます。
- デメリット: 耐久性が低く、切れやすい。
- 太いガット(例:0.67mm〜0.72mm)
- メリット: 耐久性が高く、切れにくい。 シャトルとの接触時間が長く感じられ、ホールド感が強くなります。
- デメリット: 反発力が低く、細いガットに比べて飛びが抑えられる。
縦と横で太さを変えるハイブリッドでは、例えば「縦を太くして耐久性を上げ、横を細くして反発性を補う」といった考え方ができます。
ガットの素材・構造(マルチフィラメント等)の違い
バドミントンガットの多くはナイロンを主成分としていますが、その内部構造によって打球感が大きく異なります。
- マルチフィラメント
- 構造: たくさんの極細繊維を束ねて作られています。
- 特徴: 非常に柔らかい打球感が特徴で、衝撃吸収性にも優れています。球持ちが良く、コントロールを重視するプレーヤーや、肘への負担を軽減したい方におすすめです。
- デメリット: 繊維が細いため、耐久性はやや低めです。
- モノフィラメント
- 構造: 太い1本の芯(コア)の周りに細い繊維を巻き付けた構造です。
- 特徴: 硬い打球感で、反発力が高いのが特徴です。球離れが速く、スピードのあるショットを打ちたい中〜上級者向けです。
- デメリット: 衝撃が伝わりやすく、コントロールがやや難しい側面があります。
ハイブリッドでは、例えば「縦に柔らかいマルチフィラメント、横に硬いモノフィラメント」を組み合わせることで、コントロール性と反発力の両立を狙うことができます。
ガットの表面加工とショットの関係性
近年、ガットの表面に特殊なコーティングや凹凸加工を施すことで、特定の性能を高めたガットが増えています。
特にスピン性能やカット性能を向上させることを目的とした加工が多く見られます。表面の摩擦力を高めることで、シャトルに回転をかけやすくするのです。 ヨネックスの「エアロバイト」シリーズの縦糸などがその代表例で、ヘアピンやカットでシャトルをネット際に沈めたり、レシーブで相手を崩したりする際に効果を発揮します。
このような表面加工が施されたガットを縦糸に使い、横糸に反発性の高い滑らかなガットを組み合わせることで、縦糸の動きを最大化し、より強い回転を生み出すといったハイブリッドの考え方もあります。
まとめ:バドミントンガットの縦と横を理解して、さらなる高みへ

バドミントンのガットにおける縦(メイン)と横(クロス)の違いについて、その役割からテンション設定、さらにはハイブリッド張りまで解説してきました。
- 縦ガットは打球感の主役であり、横ガットは反発力とコントロールの調整役です。
- 多くの場合、横ガットを縦より1〜2ポンド高く張ることで、フレームの変形を防ぎ、弾きの良い打球感を得られます。
- ハイブリッド張りは、縦と横に異なる種類のガットを組み合わせることで、性能を自分好みにカスタマイズできる上級テクニックです。
ガットのセッティングは、一度決めたら終わりではありません。自分のプレーの変化や、季節、体調に合わせて微調整を繰り返すことで、常に最高のパフォーマンスを引き出すことができます。 なんとなくお店の人に任せていたガット張りも、これからは「縦は23ポンドで、横は24ポンドにしてください」と、自分の意思を持ってオーダーできるようになるはずです。
ガットの縦と横という、この小さな違いへのこだわりが、あなたのバドミントンを新たなレベルへと引き上げてくれるでしょう。


